商標審査基準が見直しへ。「コンセント制度」の運用明確化、グループ企業における「支配関係」の扱いとは?
グループ会社間での商標の持ち合いや、他社との共存を検討している知財担当者の皆様にとってはをウォッチしておくべき情報かもしれません。
2025年12月12日、特許庁のワーキンググループにて、商標審査基準の改訂方針が了承されました。今回の改訂の焦点は、導入からしばらく経過した「コンセント制度(商標法第4条第4項)」の運用明確化と、それに伴う旧来の運用ルールの整理(廃止)です。
特に、「親子会社ならなんとかなるだろう」という感覚で商標管理を行っている場合、今回の改訂は実務に直結する大きな変化となる可能性があります。
この記事では、公表された資料を基に、複雑な法改正のポイントを噛み砕いて解説し、企業の知財部がとるべき対応について考察します。
この記事の要点
- コンセント制度において、「支配関係(親子会社等)」があれば「混同のおそれがない」と判断される旨が明確化。
- その一方で、先行商標(11号)の審査で認められていた「取引の実情」を考慮する規定が削除される方針。
- これまでの「例外的な運用」が廃止され、コンセント制度(第4項)への一本化が進むため、合意書等の管理がより重要に。
記事の目次
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商標審査基準が改訂へ。グループ知財管理の重要局面
まずは、今回の改訂議論がどのような経緯で進んできたのか、その背景を整理しましょう。ポイントは「コンセント制度」の導入と定着です。
改正商標法(第4条第4項)が施行されました。これにより、先行登録商標と類似する場合でも、「他人の承諾」があり、かつ「混同を生ずるおそれがない」場合には登録が可能となりました。
制度導入後の運用状況を踏まえ、審査基準の改訂案(コンセント制度の運用明確化、旧規定の削除等)が審議され、その方向性が了承されました。
修正後の「商標審査基準改訂案」について、広く意見募集(パブリックコメント)が行われる予定です。
制度導入から1年半以上が経過し、実務上の事例も蓄積されてきました。今回の改訂は、これまで過渡期として残されていた古い基準を整理し、新しいコンセント制度を中心とした運用に完全移行するための「仕上げ」と言えるでしょう。
【用語解説】コンセント制度(Consent System)とは?
通常、他人の登録商標と似ている商標は登録できません。しかし、「先行権利者の同意(承諾)」があり、かつ「出所の混同を生ずるおそれがない」と特許庁が認めた場合に限り、例外的に登録を認める制度のことです(商標法第4条第4項)。
【解説】「コンセント制度」の運用はどう変わる?
今回の改訂で特に注目すべきは、「混同を生ずるおそれがない」と判断される要件が明確化される点です。これにより、企業にとっては予見可能性が高まるメリットがあります。
「支配関係」があれば認められやすくなる
グループ企業にとって朗報と言えるのが、「支配関係」に関する記述の追加です。
出願人と引用商標権者(先行商標の持ち主)との間に「支配関係」がある場合、一方が他方の経営に影響を行使でき、商標管理も適切に行われると期待できるため、「混同を生ずるおそれはない」ものとして取り扱うという方向性が示されました。
【用語解説】ここで言う「支配関係」とは?
主に以下の2つのパターンを指します。
- 親子関係:出願人が引用商標権者を支配している、またはその逆の場合(株式の過半数保有など)。
- 兄弟関係:出願人と引用商標権者が、共に同一の者(親会社など)によって支配されている場合。
「出所の実質的同一」もカギに
また、支配関係がない場合でも、共同事業(JV)などで「商品・役務の出所が実質的に同一である」と認められる場合も、混同のおそれがないと判断されることが基準に明記されます。
Check
混同が生じない3つのルート
改訂後の基準では、以下のいずれかに該当すれば、コンセント(承諾)があることを前提に登録が認められる可能性が高まります。
- 市場の棲み分け:合意等により、商品や販売地域などが明確に棲み分けられている。
- 出所の実質的同一:共同プロジェクトなど、需要者から見て実質的に同じ出所と認識される。
- 支配関係:親子会社や兄弟会社などの強固な関係がある。
【要注意】「取引の実情」による例外がなくなる?
一方で、実務担当者が注意しなければならないのが「厳格化」される部分です。
これまで、先行商標(第4条第1項第11号)に該当する場合でも、「取引の実情」を主張して非類似(似ていない)と認めてもらう運用が行われてきましたが、この規定が削除される方針です。
Logic
なぜ「取引の実情」規定を削除するのか?
コンセント制度が導入される前は、法律上の抜け道として、形式的に類似する商標でも「取引の実情(当事者間で話がついている等)」を考慮して、例外的に非類似として登録を認める運用が必要でした。
しかし、現在は法的に「コンセント制度(第4条第4項)」が整備されました。そのため、無理に類否判断(第11号)の中で処理するのではなく、「類似は類似」と認めた上で、堂々と第4項(コンセント制度)の枠組みで救済すべきという整理が行われたのです。
これに伴い、今後の審査フローは以下のように厳格化されることが予想されます。
-
Step 1
第4条第1項第11号の該当性判断
まず、先行登録商標と同一・類似であるかが判断されます。改訂後は、ここで「取引の実情」による非類似の主張は原則できなくなる見込みです。
-
Step 2
第4条第4項(コンセント)の適用検討
類似と判断された場合、拒絶を回避するには「コンセント制度」の適用を目指すことになります。ここで必須となるのが、先行登録商標権者の「承諾(コンセント)」です。
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Step 3
「混同を生ずるおそれ」の審査
承諾に加え、「混同を生ずるおそれがない」ことの立証が必要です。ここで先述の「支配関係」や「市場の棲み分け」などの事情が審査されます。
実務担当者が確認すべきこと
今回の基準改訂は、グループ企業における商標管理の在り方に変化を迫るものです。
特に、これまで第11号の例外規定(支配関係があれば11号に該当しないとする運用)に依拠して出願準備を進めていた案件は要注意です。
今後は以下の点を確認し、準備を進める必要があります。
- 進行中案件の洗い出し:現在出願中、または出願予定の商標で、グループ会社の商標と抵触する可能性のあるものがないか確認する。
- 承諾書の準備体制:グループ会社間でスムーズに「承諾書」を出せる社内フロー(決裁権限など)を整備する。
- 将来の混同防止措置:コンセント制度の適用に際し、将来にわたって混同が生じないよう、具体的な使用態様を変更しない旨の「合意書」等の提出が求められる場合があります。
まとめ:関係性の管理こそが重要
今回の商標審査基準改訂は、コンセント制度の利便性を高めると同時に、運用の透明性を確保するためのものです。グループ企業にとっては、「支配関係」が明確に考慮されることで、戦略的な商標取得がしやすくなる側面も大きいでしょう。
しかし、その恩恵を受けるためには、「どの会社とどの会社が支配関係にあるか」「どの商標について承諾(コンセント)を得ているか」といった、複雑な権利関係や合意内容を正確に管理しておくことが大前提となります。
エクセルや紙の台帳での管理が限界を迎える前に、関係性を可視化できるシステムの導入を検討するのも一つの手かもしれません。変化を先取りし、強い知財管理体制を築いていきましょう。






