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【産業構造審議会の内容解説】「除くクレーム」が使えなくなる?特許審査基準の見直しとAI発明のゆくえ

【産業構造審議会解説】「除くクレーム」が使えなくなる?特許審査基準の見直しとAI発明のゆくえ

特許庁のホームページでは、日々さまざまな審議会やワーキンググループの開催情報が公開されています。しかし、日々の業務に追われる中で、新着情報が出るたびに膨大な「配布資料」「議事録」の隅々まで目を通す時間は、なかなか取れないのが現実ではないでしょうか。

先日行われた「産業構造審議会(審査基準専門委員会ワーキンググループ)」での議論もその一つです。実はこの中で、企業の知財戦略にとって見過ごせない重要な方針転換が話し合われていました。特に議論の中心となったのは、実務でよく使われる「除くクレーム」という補正テクニックの扱いについてです。

この記事では、公表された膨大な資料を読み解き、企業の知財担当者や経営層の皆様が押さえておくべきポイントだけをギュッと凝縮して解説します。

📌この記事の要点

  • 「除くクレーム」補正による安易な権利化に対し、審査が厳格化される方向性
  • AI関連発明(発明者適格性など)について、早期の考え方整理が進む。
  • 外国語書面出願の分割など、実務上の細かい運用ルールも明確化へ。
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今回の「産業構造審議会」で何が話し合われた?

まずは、今回取り上げる「産業構造審議会(さんぎょうこうぞうしんぎかい)」について簡単に触れておきましょう。

【用語解説】産業構造審議会とは?

経済産業省に設置されている審議会の一つです。日本の産業発展のために重要な政策や制度について、有識者(大学教授、弁護士、企業の代表など)が集まって議論し、国に対して提言を行う場です。

今回はその中の「知的財産分科会 特許制度小委員会」の下にあるワーキンググループで、特許の「審査基準(審査官が特許を与えるかどうか判断するルールブック)」をどう改善すべきかが話し合われました。

今回の会合(第18回審査基準専門委員会ワーキンググループ)では、主に以下の3つのテーマが焦点となりました。

  • 「除くクレーム」補正の濫用防止と審査基準の明確化
  • AI技術の進展に対応した発明保護の在り方
  • 外国語書面出願の分割要件や同日出願などの実務運用

中でも、多くの企業にとって影響が大きいのが、1点目の「除くクレーム」に関する議論です。

【最重要】「除くクレーム」の審査が厳しくなる?

特許の実務担当者なら、「除くクレーム」という言葉を聞いたことがある方も多いはずです。拒絶理由を回避するための「奥の手」として使われてきたこの手法に対し、特許庁が審査の目を厳しくする方針を固めました。

なぜ今、見直しが入るのでしょうか。その背景には、制度の隙間を突くような「実質中身のない特許」が増えてしまったことへの強い危機感があります。

そもそも「除くクレーム」とは

「除くクレーム(Negative Limitation)」とは、特許の権利範囲から特定の事項を「~を除く」と明記して、ピンポイントでカットする補正のことです。

通常、自分たちの発明が昔の文献(先行技術)と一部カブってしまい、「新しくない(新規性がない)」と言われてしまった時に、そのカブった部分だけを切り捨てて、「これで文句ないでしょう」と拒絶理由を解消するために使われます。

【深掘り】何が問題視されたのか?「阻害要因」の抜け穴

今回の審議会で最大の問題となったのは、本来なら「誰でも思いつくレベル(進歩性がない)」はずの発明が、除くクレームを使うことで特許になってしまうケースです。

ここには、審査における「阻害要因(そがいよういん)」というルールが深く関わっています。

【用語解説】阻害要因(そがいよういん)とは?

進歩性の判断において、「それらを組み合わせるには無理がある(組み合わせを妨げる事情がある)」とされる要素のことです。

特許審査では、過去の技術Aと技術Bを組み合わせることが「簡単」なら特許になりません。逆に、「AとBを混ぜると壊れてしまう(=阻害要因がある)」ような場合は、「それをあえて組み合わせたのはすごい!」となり、特許(進歩性)が認められやすくなります。

Logic

「除外したから別物です」という理屈の横行

一部の出願において、以下のような「形だけの理屈」で強引に特許を取ろうとする事例が見られました。

  1. 過去の文献とカブる部分を「除くクレーム」でカットする。
  2. 「カブる部分を除外したのだから、過去の技術とは相性が悪い(=阻害要因がある)」と主張する。
  3. 実際には単なる設計変更で、技術的な工夫は何もないのに、審査官が「阻害要因があるなら…」と特許を認めてしまう。

審議会では、こうした手法によって生まれた「中身のない特許」が、他社にとって「どこまでがセーフで、どこからが特許侵害なのか分からない」という迷惑な状況(予見可能性の欠如)を作っていると、厳しく指摘されました。

審査基準の「記載例」が生んだ大きな誤解

また、実務の現場で「除くクレームなら通る」という認識が広まってしまった原因は、審査基準(審査官のルールブック)に書かれていた「あるOK事例」の書き方にありました。

審査基準には、「除くクレームが認められる例」として、「引用発明と技術的なアイデア(技術的思想)が大きく異なる場合」というケースが紹介されています。

しかし、この記載が逆に解釈され、以下のような都合の良い誤解が一人歩きしてしまいました。

❌【広まってしまった誤解】

「引用文献と重なる部分を除いてしまえば、『技術的なアイデアが異なる』ことになるから、どんな補正でも許されるはずだ(=新規事項違反にならない)

⭕【本来の厳しいルール】

「いくら除く補正だとしても、その結果残った発明が、最初の出願書類に書いていない『新しい技術』になってしまうなら、その補正はNGである

つまり、「重なりさえ消せば、元の書類に書いていないような発明に後から変身させてもOK」という拡大解釈が横行してしまったのです。今回の見直しでは、この誤解を解くために基準の書き方が是正されます。

これを受け、今後の審査では以下の点が徹底される見込みです。

  • 進歩性判断の厳格化:とりあえず「除くクレーム」をしたとしても、残った発明部分にしっかりとした技術的な価値がなければ、特許(進歩性)は認めない
  • 新規事項追加の厳格運用:除外した結果、当初の書類には書いていなかった「全く新しい技術の話」になってしまう場合は、「後出しジャンケン(新規事項の追加)」として拒絶する

企業がとるべき対策:明細書の「地力」が問われる

この変化は、従来の「とりあえず広い範囲で出願しておいて、ダメなら除くクレームで逃げ切る」という戦法が通じにくくなることを意味します。

今後は、出願の段階から以下の準備が必須となります。

  • 事前のデータ準備:将来的に一部を除外することになっても、「残った部分だけでも十分に効果がある」と言えるように、実験データや比較例を多めに書いておく
  • 論理的な説明:「なぜその範囲を除外するのか」という理由を、単なる逃げではなく、技術的な理由に基づいて説明できるようにしておく。

AIは発明者になれる?加速する技術への対応

もう一つの大きなトピックが「AI関連発明」です。生成AIの急速な進化により、人間がほとんど関与せず、AIが自律的に発明を生み出すケースも現実味を帯びてきました。

今回の議論では、以下の3つの論点について早期に考え方を整理することが確認されました。

  • 発明該当性:AIが作ったものは「発明」と言えるのか?
  • 発明者適格性:AIそのものを「発明者」として認めるか?
  • 引用発明適格性:AIが生成した情報を、拒絶理由の根拠(引用文献)として使えるか?

特に「AIを発明者と認めるか」は世界中で議論されていますが、現行の日本の特許法では発明者は「自然人(人間)」に限られています。しかし、技術の進歩に合わせて法制度や審査基準もアップデートしていく必要があります。河野委員(弁理士)からも、「既存の書き方では対応できない動きが出てきているため、更新が必要」との発言がありました。

実務担当者が知っておくべき「その他の変更点」

その他、実務に直結する細かい運用ルールの見直しについても報告されています。知財担当者の方は要チェックです。

  • Topic 1

    外国語書面出願の分割

    誤訳を含む外国語書面出願を分割する際、分割出願側で「誤訳訂正書」を出せば、形式的に新規事項追加に見えても、実体的な要件(分割直前の明細書の範囲内か)を満たすものとして扱う方向で検討されています。これにより、権利の無効リスクを減らせる可能性があります。

  • Topic 2

    同日出願の円滑化

    同一出願人が同じ発明を同日に出願した場合(片方は審査請求なしなど)、これまでは審査を中断する通知が出されていましたが、今後は速やかに拒絶理由(第39条第2項)を通知することで、審査を停滞させない運用になります。

  • Topic 3

    会社分割時の「拡大先願」

    会社分割があった場合の「拡大先願(第29条の2)」の適用において、出願人が同一かどうかの判断は、会社分割の効力が生じる「一般承継(いっぱんしょうけい)」の時点を基準とすることが明確化されます。

    【用語解説】拡大先願(かくだいせんがん)とは?

    自分の出願よりも先に他人が出願した明細書に、自分の発明と同じ内容が書かれていた場合、特許が取れなくなるルール(特許法第29条の2)のことです。

    ただし、出願人が「同一」であればこのルールは適用されません。今回の変更では、会社分割の際に「どの時点で同一とみなすか」の基準が明確になりました。

まとめ:この変化が、知財部門の皆様の「追い風」になることを願って

本記事で解説した重要ポイントを、一枚の図解にまとめました。
振り返りや社内での情報共有にご活用ください。

今回の審議会レポートを読んで、「実務の負担が増えそうだ」と気を引き締めた方も多いのではないでしょうか。

私たちシステム会社が軽々しいことは言えませんが、今回の「除くクレーム」の厳格化は、裏を返せば、この基準をクリアして取得された特許が「より強固で信頼性の高い権利」として評価されるきっかけになるのかもしれません。

また、開発部門の方々に「なぜ早期の連携や比較データが必要なのか」を説明する際、今回の特許庁の公的な動きが、皆様の主張を裏付けるひとつの「後押し」として機能する場面もあるのではないかと想像しています。

制度が変われば、実務フローや社内調整など、現場の皆様のご苦労は計り知れません。
私たちミガリオは、システムを提供する立場からではありますが、こうした変化に対応しようと日々奮闘されている知財部の皆様を、業務の効率化や情報の整理といった面で、少しでもサポートできればと思っています。

【こちらの記事もオススメです】

今回のテーマに関連して、権利化の実務テクニックや、制度改正に関する過去の記事もぜひ併せてご覧ください。

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