IP BASE AWARD ファイナリスト決定! 【ノミネート企業紹介シリーズ Vol.1】 EAGLYS株式会社 「秘密計算×MI」の知財戦略や取得済み特許を分かりやすく解説!
先日、知財功労賞の登竜門として位置づけられる特許庁主催「第7回 IP BASE AWARD」のスタートアップ部門ファイナリスト4社が発表されました!!
今年のテーマとして掲げられているのは「国内スタートアップ知財エコシステムの形成」の形成です。一社単独での成長にとどまらず、他社との共創や業界全体の発展を促すような、開かれた知財戦略がより一層重要視されている現代に合わせたテーマとなっております。3月3日の最終選考(グランプリ決定)を前に、当ブログではノミネートされた4社に焦点を当て、その知財戦略を深掘り、特許を紹介するシリーズ企画をお届けします。
🏆 第7回 IP BASE AWARD ファイナリスト(スタートアップ部門)
- EAGLYS株式会社:秘密計算技術によるデータセキュリティ・利活用
- エピストラ株式会社:AI×バイオ(実験自動化)によるライフサイエンス加速
- 株式会社ゼロボード:GHG排出量算定・可視化クラウド
- ルクサナバイオテク株式会社:核酸医薬における独自技術
シリーズ第1回目となる今回は、EAGLYS株式会社(イーグリス)を特集します。企業間のデータ連携における最大の課題である「セキュリティとプライバシー」の壁に対し、「秘密計算」という技術と、それを支える特許網でどのような解決策を提示しているのか。その戦略を紐解いていきます。
この記事の要点
⏱️読了目安: [約5分]
- アワード選出の背景: 「データは出せない」という企業の壁を壊す「秘密計算」の実用化と、それによるエコシステム形成への貢献が評価されたと考えられます。
- 注目の特許技術: 「AIモデル」も「材料データ」も互いに隠したまま最適解を導く「相互秘匿探索」など、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)分野の重要特許を保有。
- 知財戦略: 高速化技術などの「コア」だけでなく、データ共有の運用ルールまで特許化することで、他社が安心して参加できる基盤を構築しています。
記事の目次
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第7回 IP BASE AWARD 開催概要
まずは、今回EAGLYS株式会社がファイナリストとして選出された「IP BASE AWARD」について、その概要を確認しておきましょう。このアワードは、スタートアップ部門、エコシステム部門の各部門において、知財戦略の構築や知財支援活動に顕著な功績を挙げた企業や人物を表彰する制度です。
開催情報
- 授賞式・最終審査: 2026年3月3日(火)
- 主催: 特許庁
- 概要: スタートアップによる知財活用や、エコシステム形成を促進するための取り組みを表彰。当日はファイナリストによるピッチ審査が行われ、グランプリが決定します。
EAGLYSが挑む「データ活用と保護」の両立
EAGLYS株式会社は、2016年の設立以来、データを暗号化したまま計算処理を行う「秘密計算」技術を軸に事業を展開しているスタートアップです。
AIやビッグデータ解析が必須となる現代において、企業は「他社とデータを連携してイノベーションを起こしたい」というニーズを持つ一方で、「機密情報やプライバシーに関わるデータは外部に出せない」というセキュリティのジレンマを抱えています。
EAGLYSは、この課題に対し、「データの中身を見せないまま、データの価値(計算結果)だけを共有する」というプラットフォームを提供し、三井物産やJR東日本といった大手企業とのPoC(実証実験)や実用化を推進してきました。今回のIP BASE AWARDファイナリスト選出は、こうした取り組みが、日本産業界における「安全なデータ連携基盤」として高く評価された結果の表れではないでしょうか。
秘密計算技術の社会実装を目指し創業。
化学・素材・ヘルスケア分野などでの企業間データ連携を見据え、データとアルゴリズムを秘匿したままの解析を検証。
<参考>https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000041103.html
データ共有システム(特許7250390号)、MIデータ生成(特許7440149号)、データ結合(特許7762929号)など、技術とビジネスモデルを保護する特許群を確立。
スタートアップ部門のファイナリスト4社の一つに決定。
【技術解説】特許から読み解くEAGLYSの「凄み」
では、EAGLYSの技術は何が画期的で、どのような特許によって支えられているのでしょうか。ここでは、特に化学・素材メーカーなどが注目するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)分野に関連する主要特許を解説します。
【用語解説】マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは?
AIやビッグデータ解析の手法を材料開発に応用し、新素材の発見や開発期間の短縮を目指す取り組みのことです。従来は熟練研究者の勘や経験、膨大な実験に頼っていましたが、MIでは過去の実験データをAIに学習させることで、「最適な組成」や「物性」を予測します。ただし、AIの精度を上げるには大量のデータが必要であり、自社データだけでは限界があるのが課題でした。
1. AIもデータも隠せる「相互秘匿探索」(特許第7440149号)
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)において、材料メーカー(ユーザー)は「開発中の材料データ」を秘密にしたいと考え、AIベンダー(プロバイダー)は「独自の予測モデル(アルゴリズム)」を盗まれたくないと考えます。この特許技術は、お互いに中身を隠したまま、共同で「より良い材料」を探し出すことを可能にします。
遺伝アルゴリズム × 特定困難化処理
この特許の最大の特徴は、単に暗号化するだけでなく、結果を返す際に「特定困難化処理」を行っている点です。
- 暗号化して予測:ユーザーは材料データを暗号化したまま送ります。AI側も中身を見ずに予測値を計算します。
- シャッフルして返す:AI側は、予測結果の並び順をランダムに変えたり、ノイズを混ぜたりしてからユーザーに返します。
- モデルの逆算を防ぐ:ユーザーは「どのデータが良い結果だったか」という評価値だけを受け取れますが、正確な対応関係がボカされているため、「AIモデルの中身」を逆算(リバースエンジニアリング)することができません。
2. 複数社のデータを安全に混ぜる「セキュアデータ結合」(特許第7762929号)
「自社のデータだけではAIの精度が上がらない。でも他社にデータは渡せない」。そんな現場の悩みを解決するのがこの特許です。
暗号化状態での「連合学習」的アプローチ
企業Aと企業Bが、それぞれの「秘伝のデータ」を持ち寄り、協力して強力なAIモデルを作るシナリオを実現します。
- 安全な場所で結合:各社はデータを暗号化して送信します。システムは、ハードウェアレベルで隔離された安全な領域(TEEなど)の中だけで、一時的にデータを復号・結合します。
- 結果だけを持ち帰る:結合データを使ってAI学習を行い、精度が向上したモデルや予測結果だけを各社に返します。計算に使ったデータはその場で消去されます。
- メリット:他社に生データを見られることなく、「データ連携による精度向上」という恩恵だけを受け取ることが可能になります。
【比較】従来の手法と何が違うのか?
データ共有やAI活用において、従来の手法とEAGLYSの技術(秘密計算)はどう違うのでしょうか。両者を比較すると、そのメリットが明確になります。
- 生データ共有:データをそのまま渡すため、情報漏洩や不正利用のリスクが常に付きまとう。契約手続きも煩雑。
- 匿名加工・抽象化:個人情報や機密部分を削除・加工するため、データの詳細さが失われ、AIの予測精度が下がってしまう。
- 暗号化して計算:データを暗号化したまま処理するため、中身を見られるリスクがない。
- 高精度を維持:データの情報を保ったまま計算できるため、生データを使った場合と同等の高い精度を出せる。
エコシステムを作るための知財戦略
EAGLYSがIP BASE AWARDのファイナリストに選出された理由は、単に「技術が優れているから」だけではないでしょう。EAGLYSの知財戦略には、「市場(エコシステム)自体を作り出す」という明確な意思が感じられます。
1. 「ルール」まで特許にする
EAGLYSは計算技術だけでなく、「どの項目をどこまで開示するか」という「データ共有の管理システム」(特許第7250390号)自体も特許化しています。< これは、参加する企業が安心してデータを預けられる「プラットフォームのルール」を知財で定義していると言えます。
2. 「マーケットイン」の知財構築
EAGLYSは市場が立ち上がる前から「将来どのような形でデータが流通するか」を見据え、先行して特許網を構築してきました。技術的なコア(高速化など)を押さえつつ、応用レイヤー(MI、ログ管理など)まで幅広く権利化することで、他社が参入しやすく、かつEAGLYSの技術を使わざるを得ないような環境を作り出しています。
他、EAGLYSの主要な特許
- 特許第7250390号:共有データの開示レベル制御システムJ-PlatPat案件ページ
- 特許第7440149号:MIにおけるデータ生成方法(遺伝アルゴリズム)J-PlatPat案件ページ
- 特許第7598600号:TEEを用いた安全な鍵変換処理J-PlatPat案件ページ
- 特許第7762929号:複数組織データの結合・学習処理J-PlatPat案件ページ
まとめと次回予告「エピストラ株式会社」
EAGLYSの取り組みは、「技術でデータを守る」だけでなく、「知財で連携の信頼を作る」という点で、まさに知財エコシステムの模範と言えるかもしれません。2026年3月3日の最終審査で、プレゼンテーションがどのように評価されるのか、今から非常に楽しみです。
さて、次回の連載第2回では、同じくファイナリストに選出された「エピストラ株式会社」にスポットを当てます。「AI×ロボット」でライフサイエンス実験を自動化するという、これまた尖った技術を持つスタートアップです。バイオ分野における独自の知財戦略とは? 次回もぜひご期待ください!!!
