エルメスのバーキンは「形」そのものが最強のブランド!<立体商標の面白い世界>

バッグの王様、エルメスの「バーキン」。世界中の女性の憧れであり、
その美しいフォルムはまさに芸術品です。
しかし、その「形」に、デザインの美しさを超えた、
もう一つの”王様級”の価値が法的に認められていることをご存知でしょうか?
今回は、バーキンを切り口に、知っていると少し世界が面白く見える「立体商標」について、
誰にでも分かるように紐解いていきます。
バーキンの誕生秘話 – 飛行機での偶然の出会いが歴史を作った
物語は1984年、パリからロンドンへ向かう飛行機の中から始まります。
偶然にも、イギリス出身の女優であり歌手のジェーン・バーキンの隣に座ったのは、
エルメスの5代目会長、ジャン=ルイ・デュマでした。
当時、彼女が使っていた籐の籠バッグから、荷物がバラバラと床に散らばってしまいます。
それを見た彼女は「週末のお出かけに必要なものが全部入るような、
機能的で美しいバッグがないのよね」と嘆きました。
この一言が、歴史を動かします。デュマは彼女の言葉にインスピレーションを受け、
「それなら、エルメスがあなたのための理想のバッグを作りましょう」と提案。
その後、彼女のアイデアを基にデザインされたのが、あの「バーキン」なのです。
単なる商品ではない、一人の女性の「欲しい」という願いから生まれた特別なストーリー。
これこそが、バーキンがただのバッグではない理由の一つです。
その「形」自体がブランドの証!「立体商標」ってなんだ?
さて、ここからが本題です。エルメスはこのバーキンの「形」そのものを、
「立体商標」として登録しています。
見ただけでわかる「あのブランドだ!」という力
「立体商標」とは、簡単に言うと、商品や容器の立体的な形状そのものを
「商標(ブランドのマーク)」として認める制度です。
例えば、私たちがスーパーで緑の瓶に赤いラベルのくびれた瓶を見れば
「コカ・コーラだ!」と分かりますし、特徴的な形の容器を見れば
「ヤクルトだ!」と認識できますよね。
この、形だけで「どこの会社の商品か」を識別できる力、これこそが立体商標の正体です。
バーキンも同様に、あの台形のフォルム、2本のベルト、そして象徴的なカデナ(南京錠)。
これらの特徴的な「形」が、長年の歴史の中で「これはエルメスのバーキンだ」
と誰もが認識できる強力なサインになったのです。
なぜ「意匠」じゃないの?立体商標で守る2つの大きなメリット
「デザインを守るなら『意匠登録』じゃないの?」と思った方、素晴らしい!
意匠権もデザインを守る強力な権利ですが、立体商標には意匠権にはない、
ブランドにとって非常に重要なメリットがあるのです。
メリット1:更新すればずっと使える「半永久的な権利」
これが最大のメリットです。
- 意匠権:デザインの「新しさ」を保護するもので、権利は最長25年で終了します。
- 立体商標権:ブランドの「顔」を保護するもので、更新すれば半永久的に権利を維持できます。
つまり、意匠権だけだと25年後には誰でもバーキンと同じ形のバッグを作れてしまう可能性があります。しかし、立体商標として登録されていることで、エルメスは100年後も、その先もずっと「バーキンの形」を自社のシンボルとして守り続けることができるのです。
メリット2:蓄積された「ブランド価値」そのものを守る
意匠権がデザインの「美しさ」や「創作性」を守るのに対し、立体商標は、その形に宿った「信用」や「名声」といったブランド価値そのものを守ります。
これにより、デザインを少しだけ変えた巧妙な偽物や、雰囲気を真似ただけの「バーキン風バッグ」に対しても、「お客様がエルメスのブランドと混同してしまいます!」と、より強く「待った!」をかけやすくなるのです。ブランドが長年かけて築き上げてきた価値を守る、最後の砦とも言えます。
実は身の回りにもたくさん!バーキン以外の立体商標たち
この「立体商標」、実は私たちの身の回りにあふれています。
いくつか例を挙げると、きっと「へぇ!」となるはずです。
- きのこの山(お菓子):なんと、あのキノコ型のチョコレート菓子そのものが立体商標です!
- ホンダのスーパーカブ(バイク):
世界中で愛されるバイクの形も、ホンダのシンボルとして認められています。 - ケンタッキーのカーネル・サンダース立像:
店頭にいるカーネルおじさんも、KFCの強力な「立体的な看板」として保護されています。 - 不二家のペコちゃん人形:こちらもお馴染みですね。キャラクター人形も立派な立体商標です。
いかがでしたか?
バッグの王様「バーキン」に隠された、もう一つの強力な価値「立体商標」。
一つのバッグの形に、素敵な誕生秘話と、それを未来永劫守るための
知的な戦略が隠されているなんて、なんだかワクワクしませんか?
今度お店でな商品を見かけたら、「これも立体商標かな?」と考えてみると、
ショッピングがもっと興味深く、楽しくなるかもしれませんね。