【結果発表】第7回 IP BASE AWARD!グランプリ/各賞の受賞企業決定! 各社の授賞理由の解説と、スタートアップが大企業と対等に渡り合うための「戦略」を考える
これまで「ノミネート企業紹介シリーズ」として追ってきた、第7回「IP BASE AWARD」。2026年3月3日の公開ピッチ審査を経て、ついに受賞企業が決定いたしました!
今回の第7回における表彰対象のテーマは、「国内スタートアップ知財エコシステムの形成」です。このテーマが示す通り、今回は単に「すごい技術を発明した」「特許をたくさん取った」といった技術自慢ではなく、特許を「大企業と対等に渡り合うための武器」や「市場を独占する防波堤」として活用し、ビジネスの飛躍的な成長(スケーラビリティ)に直結させた企業が高く評価されました。
【用語解説】ビジネスにおける「エコシステム」とは?
本来は自然界の「生態系」を意味する言葉ですが、ビジネスにおいては「複数の企業や個人が連携し、互いに協力しながら共存共栄していく仕組み」を指します。
スタートアップ知財エコシステムとは、スタートアップ、大企業、投資家、知財専門家などが「知財」をハブとして結びつき、単独では成し得ないような新たなイノベーションを持続的に生み出していく環境のことです。
本記事では、シリーズの完結編としてスタートアップ部門の受賞結果を発表するとともに、見事受賞を果たした企業たちがどのような「攻めの知財戦略」を実践したのか、その授賞理由を徹底解説します。
この記事の要点
⏱️読了目安: [約8分]
- 【エピストラ(グランプリ)】特許化と秘匿化(ノウハウ)を使い分ける高度なオープンクローズ戦略で、大企業と対等な「レベニューシェア契約」を実現。
- 【ゼロボード(ダブル受賞)】「脱炭素」という未開拓市場に200件超の特許網を張るブルーオーシャン戦略と、実務者の負担を劇的に減らすUI/AI特許の工夫が評価された。
- 【EAGLYS(奨励賞)】「秘密計算」による安全なデータ連携基盤の技術特許に加え、エコシステムの「ルール」自体を知財化する戦略で資金調達に成功。
記事の目次
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【結果速報】第7回 IP BASE AWARD スタートアップ部門 受賞企業
2026年3月3日(火)、東京都立産業貿易センター浜松町館にて開催された授賞式および公開ピッチ審査を経て、見事受賞を果たした企業は以下の通りです。
🏆 第7回 IP BASE AWARD スタートアップ部門 受賞者
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グランプリエピストラ株式会社
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オーディエンス賞・奨励賞株式会社ゼロボード
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奨励賞EAGLYS株式会社
経済産業省・特許庁からの公式ニュースリリースや、IP BASEでの発表については以下のリンクからご確認いただけます。また、熱気あふれるピッチ審査の様子はYouTubeでアーカイブ配信されていますので、スタートアップの生の声と戦略プレゼンをぜひご覧ください!
ここからは、受賞した各社がどのような知財戦略を展開し、なぜ高く評価されたのか、その「授賞理由」を深掘りして解説していきます。
【グランプリ】エピストラ株式会社:大企業と対等に渡り合う「オープンクローズ戦略」
見事グランプリに輝いたエピストラ株式会社。同社は、新素材や医薬品開発などの研究現場において、AIを用いた「ベイズ最適化」により、膨大な条件検討の実験回数を劇的に削減する技術を持っています。例えば、11個の変数で約4,300兆通りもの組み合わせがある難題に対し、わずか60回の実験で最適条件を特定した実績を誇ります。
しかし、彼らが評価された最大のポイントは画期的な技術そのものではなく、「技術をどのように知財で守り、ビジネスの拡大(スケール)に繋げたか」という点にあります。
【用語解説】ベイズ最適化とは?(砂漠の宝探し)
広大な砂漠の中から、たった一つの宝箱(最適解)を探す状況を想像してください。
闇雲に穴を掘るのではなく、いくつか掘ってみて得られた地質データ(過去の実験結果)を元に、「この地形なら、あっちの方角に宝がある確率は80%だ」と確率的に予測し、次の一手を決める手法です。これにより、最小限の試行回数で宝にたどり着くことができます。
【用語解説】オープンクローズ戦略とは?
自社の技術のうち、あえて公開して特許にして権利を主張する部分(オープン)と、他社に真似されないように絶対に秘密にするノウハウ部分(クローズ)を明確に切り分け、ビジネスを有利に進める戦略のことです。
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Step 1
コア技術の確立と知財化のメリハリ
独自開発した機械学習・数理最適化技術(逐次最適化の全過程)を特許として網羅的に権利化する一方で、他社に真似されやすいノウハウ部分はあえて特許に出さず「秘匿化」するという、高度なオープンクローズ戦略を実行しました。
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Step 2
大企業との対等な交渉と契約
Step 1で構築した強固な知財(技術・実績・特許)を後ろ盾(武器)として活用し、大企業の下請けではなく、対等なパートナーとしてのライセンス契約や、利益を分け合う「レベニューシェア契約」を結ぶことに成功しました。
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Step 3
スケーラブルなビジネスの実現
知財を起点とした契約戦略により、自社のリソースの限界を超え、大手製薬会社などで60件以上の生産性改善実績を誇るなど、大きくスケールするビジネスを実現しました。
スタートアップが大企業と提携する際、技術だけでは買い叩かれたり、アイデアを奪われたりするリスクが常にあります。エピストラの事業化力は、知財を真の「武器」として活用した見本と言えます。
↓ エピストラ株式会社の特許等をさらに深掘りした記事はこちら! ↓
【オーディエンス賞・奨励賞】株式会社ゼロボード:脱炭素市場を制する「ブルーオーシャン戦略」
株式会社ゼロボードは、企業の温室効果ガス排出量(Scope 1-3)を算定・可視化するクラウドサービスを提供しています。同社は、オーディエンス賞と奨励賞のダブル受賞を果たしました。
評価されたポイントは、「低炭素・カーボンニュートラル・脱炭素」という環境用語の文脈を特許出願で網羅的に独占するブルーオーシャン戦略です。全社的に知財を生み出す文化を形成し、200件を超える特許出願による強固なポートフォリオを構築しています。
- 製品、プロセス、原単位がフラット(同列)に表示される。
- どれが親でどれが子か分かりにくく、設定ミスが多発しやすい。
- 変更作業が煩雑で、環境に関する専門知識が必要。
- 「製品>フェーズ>プロセス」と階層(インデント)で整理される。
- 視認性が高く、直感的に操作できるためミスが減る。
- 非専門家でも算定が可能になり、属人化を防げる。
また、AIによるサプライヤの自動特定や、上記のような直感的な階層UIなど、「実務担当者の泥臭い入力作業の負担」を1秒でも減らしたいという開発者の執念から生まれた知財戦略で、他社との差別化を決定づけている点も見逃せません。
↓ 株式会社ゼロボードの特許等をさらに深掘りした記事はこちら! ↓
【奨励賞】EAGLYS株式会社:秘密計算で「データ連携のエコシステム」を築く
ノミネート企業紹介の第1弾でも詳しく取り上げたEAGLYS株式会社も、見事奨励賞を受賞しました。
同社は、データを暗号化したまま計算処理を行う「秘密計算」の技術を持っています。これにより、企業は機密情報やプライバシーを守りながら、他社と安全にデータを連携してAI活用を進めることが可能になります。
Point 01
「エコシステムのルール」自体を知財化する凄み
EAGLYSの凄さは、秘密計算による安全なデータ連携技術にとどまらず、共有データの開示レベル制御システムなど「エコシステムのルール」自体を特許化している点にあります。他社が参入しやすく、かつ自社技術を使わざるを得ないマーケットインの知財網を構築することで、強固なビジネス基盤を作り上げています。
Point 02
事業ピボットを支え、資金調達の呼び水に
スタートアップにおいて、市場環境に応じたビジネスモデルの変更(ピボット)は付き物です。EAGLYSは、市場を見極めてピボットした際にも、新しいビジネスモデルを強固に支えるための事業ピボットを素早く支えた特許網の構築力を発揮しました。この機動的な知財構築が投資家への安心材料となり、見事に資金調達への呼び水となった点が高く評価されました。
技術でデータを守るだけでなく、「知財で連携の信頼を作る」という同社の取り組みは、まさに知財エコシステムの模範と言えるでしょう。
↓ EAGLYS株式会社の特許等をさらに深掘りした記事はこちら! ↓
【考察】これからのスタートアップに求められる「知財戦略」のあり方
今回の受賞企業3社に共通しているのは、特許を単なる「自社技術の保護(守り)」で終わらせず、経営課題を解決し、事業をスケールさせるための「積極的なツール(攻め)」として昇華させている点です。
スタートアップが大企業と連携する際、多くの場合「資金力」や「販売網」といったリソース面で圧倒的な不利に立たされます。アイデアや技術だけでは、最悪の場合、大企業に吸収されたり、下請け化してしまったりするリスクが伴います。しかし、エピストラのように「特許化」と「秘匿化」を巧みに使い分けるオープンクローズ戦略を展開できれば、自社のコアな強みをブラックボックス化したまま、特許という強力な後ろ盾を用いて対等な交渉(レベニューシェア等)のテーブルにつくことが可能になります。
また、ゼロボードが示したように、脱炭素というこれからルールが形成されるブルーオーシャンの領域に先回りし、網羅的に特許網を張り巡らせる戦略は、後発の大企業や競合他社の参入障壁を高く築き上げる強力な防波堤となります。さらにEAGLYSのように、自社技術を守るだけでなく「他社がデータ連携する際のエコシステムのルール」自体を特許化できれば、自社を中心としたプラットフォームを形成し、それが投資家からの信頼(資金調達のパスポート)へと直結します。
つまり、これからのスタートアップに求められる知財戦略とは、出願件数を追うことではなく、「事業の出口(誰と連携し、どうマネタイズするか)から逆算し、エコシステムの中で自社が優位に立つための知財ポートフォリオを意図的にデザインすること」だと言えます。
まとめ:知財は「守り」から、ビジネスを飛躍させる「武器」へ
第7回 IP BASE AWARD スタートアップ部門の受賞結果と、各社の授賞理由を解説いたしました。
共通して言えるのは、「どの技術を特許にし、どこを秘密にするか」「その特許を使って大企業とどう交渉するか」という、ビジネスの出口から逆算した知財戦略の重要性です。特許はただ取得するだけでは意味がなく、事業をスケールさせるための「武器」として活用して初めて真の価値を発揮します。
自社の技術を守り、育て、そしてビジネスを前進させるために日々奮闘されている経営者や知財担当者の皆様の業務は、時に孤独で非常に困難な道のりかと思います。しかし、今回の受賞企業が示した軌跡は、知財戦略をテコにすることで大きな壁すらも乗り越え、ビジネスを劇的にスケールさせることが十分に可能であると証明し、私たちに大きな勇気を与えてくれました。
私たちミガリオは、皆様の大切な知財を「ただ管理して終わらせる」のではなく、その先の「戦略」を思い描くための時間を創出したいと考えています。システムを通じて日々の煩雑な業務から皆様を解放し、未来を切り拓く「攻めの知財活動」への一助となれれば、これほど嬉しいことはありません。
今回の記事で解説した受賞企業3社の「攻めの知財戦略」と、これからのスタートアップに求められる知財のあり方について、1枚の図解にまとめました。振り返りや社内での情報共有などにぜひご活用ください。
