指輪をかざす、快適な体験の裏側へ。技術だけでは完成しない。決済機能付きスマートリングの製品価値を守る「知財」を探る。

「財布もスマホも持たずに、指輪をかざすだけで支払い完了。」
未来的な決済体験を実現するウェアラブルリング「EVERING」が注目を集めています。
【参考記事】
『決済できる指輪「EVERING」、幅広い層から支持 「利便性」「デザイン性」を両立』
(日本ネット経済新聞 2025/10/6)
確かに、カードのタッチ決済などを使用する際にカードやスマートフォンをいちいち取り出したりするのって意外と面倒ですよね。
このスマートで便利な製品の裏側で、様々な知的財産がその価値を支えていることはご存知でしょうか。今回はこのEVERINGを題材に、一つの製品がどのような知的財産によって守られているのかを探っていきます。ヒット商品の背景にある「知財」の世界を、一緒に見ていきましょう。
そもそも「EVERING」とは?
EVERINGは、指輪にVISAのタッチ決済機能を搭載した「スマートリング」です。主な特徴は以下の通りです。
- 充電不要:リング内のICチップが決済端末の電波に反応して作動するため、充電の必要がありません。
- 高い安全性:国際標準レベルのセキュリティが担保されており、紛失時にはアプリからすぐに利用停止できます。
- 洗練されたデザイン:セラミック素材で作られており、防水性も備えているため、つけっぱなしで生活できます。
テクノロジーとファッション性、利便性を高いレベルで融合させた製品で、普段使いにも便利なシンプルな色味(黒・シルバー・ホワイト)に加え、2025年の10月1日からは、よりファッション性を高めたデザインの「NEON BUZZ」というシリーズも発売されました。各種公式オンラインショップに加えて、全国のドコモショップやauショップ、大手家電量販店でも手に入れることができるようです。
【株式会社EVERING 公式情報】
- 公式HP:https://evering.jp/
- EVERING製品ページ:https://evering.jp/collections/evering
- EVERING NEON BUZZ シリーズ製品ページ:https://evering.jp/collections/neon-buzz
EVERINGを多角的に守る「知的財産」
EVERINGは、その独自の価値を守るために、様々な知的財産権によって多角的に保護されています。ここでは、株式会社EVERINGはもちろんのこと、その親会社である株式会社MTGが取得している権利も含めて具体的にご紹介します。
① ブランドの顔を守る「商標」
まず、製品名やロゴといった”ブランドの顔”を保護するのが商標権です。
MTGは、「EVERING」という文字や、特徴的なロゴデザイン、動作をイメージさせる造語などを商標として登録しています。
- 商標登録第6374216号:会社名でもあり、製品名でもある「EVERING」
- 商標登録第6539224号:会社ロゴ
- 商標登録第6964552号:ゆびをかざして決済をする動作をイメージさせる造語「ゆぴっ」
- 商願2025-71105:新シリーズ「NEON BUZZ」※執筆時審査待ち
これにより、他社が同じ名前や紛らわしいロゴを使って類似品を販売することを防ぎ、消費者が安心して本物のEVERINGを選べる環境を整えています。
② デザインの独創性を守る「意匠」
製品の見た目、つまり”デザイン”を保護するのが意匠権です。
EVERINGのシンプルで洗練されたリングのデザインも、意匠登録によって守られています。なお、この意匠権者は親会社である株式会社MTGとなっています。
この権利があることで、特徴的なデザインの模倣を防ぎ、製品の美しさやエレガントさという価値そのものを保護しています。
③ 技術を守る「特許」
製品の技術的なアイデア、つまり”発明”を保護するのが特許権です。
なお、これから紹介する特許に関しても特許権者はMTGとなってりおります。将来の製品化も視野に入れたリング型デバイスに関する技術が多数、特許出願/登録されております。
- 特許第6913590号:「リング型ウェアラブル端末およびフレキシブル基板」
指輪の中に入れる通信用の電子回路シートの長さを、指のサイズに合わせて調整可能にした技術。これによりメーカーは、1種類の部品で様々なサイズのリングを低コストで作れるようになる。 - 特許第7236798号:「リング型ウェアラブル端末およびその製造方法」
2つのリング(内側と外側)を組み合わせる構造のスマートリングに関するもの。内側のリングに凹みを作り、そこに通信部品を収納。その後、凹み全体を接着剤で満たした状態で外側のリングを被せて固定することで、部品を衝撃から守り、リング全体の強度を高める技術。 - 特許第7044230号:「リング型ウェアラブル端末」
スマートリング本体の内側に、シリコン樹脂などでできた別パーツのリング(内径補正部材)を取り付けて指のサイズを調整する技術。これにより、メーカーはリング本体を1つのサイズで作っても、内径補正部材の厚みを変えるだけで様々な指のサイズに対応できるようになります。
これらの特許は、製造コストを劇的に下げる「部品共通化」と製品の信頼性を高める「堅牢な構造」、そしてユーザー自身がサイズを調整できる「柔軟性」を実現させています。これにより、「高品質な製品を、低コストかつ少ない在庫で、多様なユーザーへ届ける」という競争優位性を生み出すことができています。※「柔軟性」の部分に関しては、調べた限り製品にはまだ実装されていなようです。
背景にある親会社MTGの知財への姿勢
これらの具体的な権利の背景には、親会社である株式会社MTGの知財を重視する企業文化が垣間見えます。「ReFa」や「SIXPAD」といったブランドを世界的に展開する同社は、知財の活用法にも特徴が見られます。(株式会社MTG 公式HPはこちら)
1. 徹底した模倣品対策
MTGは公式サイトで「知的財産は、お客様の安全・安心・信頼を守るためのもの」と明言し、税関やECサイトと連携して年間100万点以上の模倣品を市場から排除しています。この「ブランドと顧客を断固として守る」という強い姿勢が、EVERINGを含む全製品の信頼性の基盤となっていることは明らかです。
【参考リンク】
- 株式会社MTG 『知的財産・模倣品対策』ページ
- ニュースイッチby日刊工業新聞 『美容ローラーを模倣品から守る攻めの知財戦略の中身』
2. 「秘密意匠」制度の巧みな活用
特許情報プラットフォームである、J-PlatPatで株式会社MTGの意匠を検索すると多くのものがヒットします。そして、その検索結果を見てみると多く目にするのが「秘密意匠のため表示可能なイメージがありません」というワード。
これは、同社のマーケティング戦略とも深く結びついています。では、この秘密意匠とはどういったものなのでしょうか?以下に解説をしていきます。
もう少し詳しく!攻めの知財「秘密意匠」とは?
新製品を市場に投入する際、その成否を大きく左右するのが「情報管理」です。競合他社にデザインを察知されず、発売と同時に圧倒的なインパクトを与える。そんな強力なマーケティング戦略を可能にするのが、知的財産の中でも特に戦略的な「秘密意匠」制度です。
秘密意匠制度とは?
意匠権(デザインの権利)を取得しつつも、その具体的なデザインの内容を、権利者の請求により登録日から最長3年間、特許庁の公報に掲載せず非公開にできる制度です。権利自体は登録日から発生しているため、秘密にしている期間も法的に保護された状態にあります。
「通常の意匠登録」との決定的な違い
通常の意匠登録との最大の違いは、「公開タイミング」と「権利の使い方」にあります。
▼ 公開タイミング
- 通常の意匠: 登録査定後、すぐにデザインが公報で公開され、誰でも閲覧可能になります。
- 秘密意匠: 請求した期間(最長3年)が満了するまでデザインは非公開のままです。
▼ 権利の使い方(侵害された時の対応)
- 通常の意匠: 模倣品を発見した場合、公開されている登録意匠を根拠に、すぐに差止請求などが可能です。
- 秘密意匠: 秘密期間中に模倣品を発見した場合、いきなり権利行使はできません。まず特許庁発行の証明書を提示して「警告」する必要があります。相手方がその警告を受けた後も模倣を続けた場合に、損害賠償などを請求できます。
マーケティングにおける優位性
秘密意匠制度は、デザインを隠すだけでなく、マーケティングにおいても効果を発揮します。
- 先行者利益の確保
新製品のデザインを発売直前まで秘匿することで、競合他社は対抗製品の準備が一切できません。市場に製品が登場した時にはじめてその姿を知るため、後追いでの開発・製造となり、その間に市場を独占し、先行者としてのブランドイメージを確立できます。 - サプライズ効果による話題性の最大化
情報が事前に漏れないため、製品発表時に大きなサプライズを演出し、メディアやSNSでの話題性を最大化させることができます。発売日までの期待感を高めるマーケティング戦略と非常に相性が良い制度です。
このように秘密意匠制度は、デザインを守る「盾」であると同時に、ビジネスを加速させる「鋭い矛」にもなり得る、非常に強力な知財戦略といえます。
まとめ:製品の価値は多様な「知財」が支えている
今回は、スマート決済リング「EVERING」を例に、一つの製品が商標、意匠、特許といった様々な知的財産によって守られていることを具体的に見てきました。
これらは単なる法的な手続きではなく、ブランドの信頼を守り、デザインの独創性を保ち、未来の技術への投資を保護するための重要な企業活動です。そしてその背景には、親会社MTGの知財を重視し、ブランド価値と顧客を守り抜くという強い企業文化が存在します。
製品の魅力だけでなく、それを支える「知財」の視点を持つと、ものづくりへの理解がさらに深まるのではないでしょうか。
【独り言】
NEON BUZZシリーズすごくかわいくて魅力的だなーと思ってますが、自分にアクセサリー的なものを身に着ける習慣がないので買うのに勇気が要ります…プレゼントとかにいいかも!