【株式会社ゼロボード】IP BASE AWARD ファイナリスト決定! 【ノミネート企業紹介シリーズ Vol.3】 温室効果ガス排出量の算定・可視化 サステナビリティ経営を支援!
前回の【シリーズ Vol.2】エピストラ株式会社の記事はご覧いただけましたでしょうか?
秘密計算でデータを守るEAGLYS社(Vol.1)、実験の自動運転でバイオを変革するエピストラ社(Vol.2)に続き、シリーズ第3回目となる今回は、企業の「脱炭素経営」における最大の難所、サプライチェーン排出量の算定に挑む株式会社ゼロボードを追っていきます。
🏆 第7回 IP BASE AWARD ファイナリスト(スタートアップ部門)
株式会社ゼロボードは、GHG(温室効果ガス)排出量算定・可視化クラウドサービス『Zeroboard』を開発・提供し、企業の脱炭素経営を包括的に支援している企業です。
同社のサービスは、単なる数値の集計にとどまりません。複雑なサプライチェーン全体の排出量(Scope 1-3)の可視化から、省エネ法などの法定開示対応、さらには製品単位のカーボンフットプリント(CFP)算定までをワンストップで実現します。
【用語解説】Scope 3(スコープ3)とは?
企業の温室効果ガス(GHG)排出量は、どこから出たかによって3つに分類されます。
- Scope 1:自社での燃料使用や工業プロセスによる直接排出。
- Scope 2:自社で使用した電気や熱を作るために排出された間接排出。
- Scope 3:上記以外。原材料の調達、輸送、製品の使用・廃棄など、サプライチェーン全体(自社以外)から出る排出量のこと。
Scope 3は排出量全体の大部分を占めることが多い一方で、他社のデータが必要になるため、算定の難易度が最も高いと言われています。
【用語解説】CFP(カーボンフットプリント)とは?
Carbon Footprint of Productsの略で、商品やサービスの「原材料調達」から「廃棄・リサイクル」に至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの量を、CO2に換算して表示する仕組みです。
企業単位(組織)で計算するScope 1-3とは異なり、「製品単位(個)」で計算するため、製造プロセスごとの細かいデータ収集が必要となり、計算が非常に複雑になります。
そして、彼らがテクノロジーの力で解決しようとしている核心的な課題こそが、請求書や会計データといった「お金の情報」だけでは見えてこない、「誰から何を調達したか(サプライヤの特定)」という、Scope 3算定における最大のブラックボックスなのです。
「低炭素」「カーボンニュートラル」「脱炭素」という3つの文脈を全て特許で押さえ、さらにAI(大規模言語モデル)を使って面倒な入力を自動化してしまう……。そんなゼロボードが持つ特許やその戦略について、考察を交えながら解説します。
この記事の要点
⏱️読了目安: [約6分]
- 【戦略】「低炭素・CN・脱炭素」の3語を同時併記する特許戦略でトップクラス。過去・現在・未来の文脈を独占するポジショニング。
- 【技術①】AI(LLM)が活動量データから「サプライヤ」を自動推定し、Scope 3算定の工数を劇的に削減。
- 【技術②】CFP算定の誤入力を防ぐ「階層表示UI」や、ESG質問票の「回答自動化」など実務直結の機能を知財化。
記事の目次
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【背景】なぜ今、「脱炭素経営」が企業の命運を握るのか?
気候変動問題への対応は、もはや企業のCSR(社会的責任)活動の一環ではなく、資金調達や取引継続を左右する経営の最重要課題(サステナビリティ経営)へとシフトしています。
特に、プライム市場上場企業へのTCFD開示の実質義務化や、欧州をはじめとする環境規制の強化により、自社だけでなくサプライチェーン全体(Scope 1-3)での排出量管理が求められるようになりました。企業にとって「脱炭素」への取り組みは、コストではなく「将来の競争力を確保するための投資」として認識され始めています。
【用語整理】似ているようで違う「3つのキーワード」
環境対策の文脈でよく使われる言葉ですが、実はそのニュアンスや目指す地点は微妙に異なります。
- 低炭素(Low Carbon):排出量を「減らす」活動。従来の省エネ活動や効率化の延長線上にあります。
- カーボンニュートラル(Carbon Neutral):排出量と吸収量を均衡させて「実質ゼロ」にする状態。現在の多くの企業が掲げる目標(説明責任)です。
- 脱炭素(Decarbonization):炭素に依存しないエネルギー構造へ転換すること。未来の成長産業やイノベーションを指す言葉として使われます。
言葉の定義が時代とともに移り変わる中、企業はどのスタンスで環境問題に向き合うべきなのでしょうか?実は、この「言葉の選び方」にこそ、ゼロボードの知財戦略が隠されていますと思われます。
「低炭素・CN・脱炭素」を独占? ゼロボードの巧みな知財戦略
多くの企業が「GHG排出量算定ツール」を提供する中で、ゼロボードが一線を画しているのは、その視座の高さと戦略的な知財構築にあると思われます。
「知財応援Blog」などの分析によると、ゼロボードは特許出願において、「低炭素」「カーボンニュートラル(CN)」「脱炭素」という3つのキーワードを同時に併記する出願数でトップクラスの地位を築いています。なぜ、あえて3つの言葉を並べる必要があるのでしょうか?
Strategy
過去・現在・未来を一気通貫する「文脈の独占」
環境用語は時代と共に変化します。「低炭素」はこれまでの改善活動、「カーボンニュートラル」は現在の説明責任、「脱炭素」は未来の成長戦略を指します。
多くの企業が「脱炭素」だけに目を向けがちな中で、ゼロボードはこの3つをセットで権利化することで、既存の省エネ活動(過去)から、未来の産業構造転換(未来)まで、あらゆるフェーズの環境ニーズを取り込むという強い意思表示を行っているのかもしれません。
【特許解説】「入力の自動化」を支える知財戦略
ここからは、ゼロボードが取得している特許の中から、現場の実務担当者が日々頭を悩ませている「具体的な課題」を解決するための技術をピックアップしてご紹介します。
例えば、多くの担当者が負担に感じている「データ入力」や「サプライヤ特定」といったプロセス。これらをAI活用によって自動化し、実務の「痛み」を軽減してくれる特許技術について見ていきましょう。
※なお、本記事でご紹介するのはあくまで特許公報として公開された技術情報です。実際のサービス『Zeroboard』に現在実装されている機能の詳細については、ぜひ公式サイト等で最新情報をご確認ください。
AIが「サプライヤ」を自動特定
(特許第7634915号)
「〇〇運送 支払」といった会計データの摘要欄から、AI(大規模言語モデル等)が「サプライヤ名」と「商品・サービス」を自動で推論する技術です。
- 迷子データの救済:金額データだけでは特定できなかった「排出元」をAIが補完し、適切な排出係数を自動で紐づけます。
- 表記ゆれに対応:「(株)ゼロボード」「ゼロボード支払分」のような入力のバラつきも、LLMの文脈理解によって同一サプライヤとして正しく認識します。
- Scope3の壁を突破:担当者が手作業で行っていた「サプライヤの特定作業」を自動化し、算定工数を劇的に削減します。
この技術がどのように動いているのか、特許公報から読み解いたフローがこちらです。
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Step 1
活動量データの入力
ユーザーが会計ソフトなどから「金額」「摘要(支払先名称など)」を含む活動量データをアップロードします。
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Step 2
AIによる推論(LLM活用)
システム内のAI(大規模言語モデル)が、摘要のテキスト(例:「〇〇運送」)を解析。文脈から「これは物流企業である」「カテゴリは輸送サービスである」といった情報を推論します。
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Step 3
排出係数のマッピング
推論された業種や商品カテゴリに基づき、データベースから最適な「排出原単位(係数)」を自動で引き当てます。
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Step 4
排出量の自動算出
「金額 × 排出原単位」の計算が自動で行われ、Scope 3の算定結果として出力されます。
特許②:CFP算定の「誤入力」を防ぐ階層UI
製品ごとのカーボンフットプリント(CFP)を算定する場合、原材料の調達から廃棄まで、複雑なプロセスを積み上げる必要があります。
誤入力を防ぐ「階層型UI」
(特許第7701750号)
CFP算定において、製品・フェーズ・プロセス・排出原単位を「階層構造」で明確に区別して表示するUI/UX技術です。
- 構造の可視化:「製品A」>「原材料調達」>「原料X」のようにツリー状に表示することで、今どこを入力しているかが一目で分かります。
- ミスの防止:従来システムで起きがちだった「プロセスを変えるつもりが製品自体を変えてしまった」といった操作ミスを、UI設計レベルで防ぎます。
- 直感的な操作:複雑なLCA(ライフサイクルアセスメント)の計算を、専門家でなくても直感的に扱える画面設計に落とし込んでいます。
- 製品、プロセス、原単位がフラット(同列)に表示される。
- どれが親でどれが子か分かりにくく、設定ミスが多発しやすい。
- 変更作業が煩雑で専門知識が必要。
- 「製品>フェーズ>プロセス」と階層(インデント)で整理される。
- 視認性が高く、直感的に操作できるためミスが減る。
- 非専門家でもLCA算定が可能になり、属人化を防げる。
特許③:ESG質問票の「回答地獄」からの解放
最後に紹介するのは、多くのサステナビリティ担当者を悩ませている「ESG質問票(SAQ)」に関する特許技術です。
ESG質問票の「回答」と「依頼」を自動化
(特許第7668593号)
取引先から届く大量の「ESG質問票(SAQ)」に対し、毎回エクセルを探して回答を入力する……そんな「回答地獄」から担当者を解放する技術です。
- 過去データの活用:社内に蓄積されたESGデータや過去の回答履歴をAIが分析し、「答えられる項目」の回答案を自動生成します。
- 不足分の自動依頼:社内データだけでは回答できない項目があった場合、システムが自動で「サプライヤ向けの新たな質問票」を生成します。
- 工数の削減:担当者は、AIが埋められなかった穴埋め部分だけを確認すれば済むようになり、本来の改善活動に時間を割けるようになります。
その他の主要な取得特許・技術
ゼロボード社は、上記で解説した3つの特許以外にも、脱炭素経営の周辺領域をカバーする知財を保有しています。
株式会社ゼロボード 知財ポートフォリオ(その他抜粋)
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環境価値購入システム(特許第7599769号):
リース資産等の稼働データから排出量を算定し、オフセットに必要な「環境価値(カーボンクレジット)」の購入までをシステム上で連携させる技術。J-PlatPat案件ページ -
物流GHG算定ソリューション(旧CAMOTSU):
2025年の事業譲受により統合。物流業界特有の複雑な排出量(Scope3 カテゴリ4, 9)の算定・可視化技術を強化し、ポートフォリオを拡充しています。
まとめ:「現場の負担を減らせるか」が大事な目線
今回は、ゼロボードの知財戦略と技術について解説しました。
ゼロボードの特許は「可視化の前段階にある、泥臭い入力作業」に光を当てています。
AIによるサプライヤ推定や、誤入力を防ぐUI設計。これらは全て、「実務担当者の負担を1秒でも減らしたい」という、開発者の深い共感と執念から生まれたものではないでしょうか。
脱炭素経営は、一朝一夕には終わりません。だからこそ、現場に寄り添い、面倒な作業を肩代わりしてくれるパートナーを選ぶことが、持続可能な取り組みへの第一歩になるはずです。膨大なデータと格闘されている担当者の皆様の業務が、こうした技術によって少しでも軽くなることを願っています。
さて、次回はいよいよ本シリーズの最終回となります。
第4弾(Vol.4)では、次世代の医薬品として注目される「核酸医薬」の分野で、独自の人工核酸技術を武器に創薬の限界に挑むルクサナバイオテク株式会社を取り上げます。どうぞお楽しみに!
