vol.2 家族で特許庁主催のイベントへ!! 「地域ブランドフェスタ」で学ぶ 日本のブランドを守るための 「地域団体商標制度」と「地理的表示(GI)保護制度」
先週末、家族揃って大宮の特許庁主催のイベントに参加し、美味しい地域の味が出店されている素敵な場所を堪能してきましたー!
2025年12月20日(土)・21日(日)の2日間、さいたま市大宮区の「まるまるひがしにほん」にて開催された第3回「地域ブランドフェスタ」。
実は我が家、今年の夏(第1回)もこのイベントに参加しており、その魅力は体験済み。秋の第2回はあいにく行けませんでしたが、今年最後となる今回はまた家族で参加することができました。
今回は、実際の会場の雰囲気や購入した製品の「なぜこんなに美味しいのか?」「どんなこだわりがあるのか?」、その特長や魅力を紹介しつつ、製品の魅力の背景にある「地域団体商標制度・地理的表示(GI)保護制度を改めて解説できればと思っております。
※本文中の略称について
本記事では、地域ブランドを守る制度として「地域団体商標」を『地団』、「地理的表示保護制度」を『GI』と略して表記している箇所がございます。
この記事の要点
⏱️読了目安: [約7分]
- 今回は特許庁に加え農林水産省(GI)が初連携。地域ブランドを守る「2つの制度」のお墨付き産品が一堂に集結。
- 【購入品レポ】息子が「甘いねぎ」を完食!しほろ牛やびらとり和牛など、実際に手に入れた産品の魅力と美味しさの秘密を紹介。
- 【知財コラム】なぜ「ダブル取得」が最強なのか?「地域団体商標」と「GI」の違いと、両方取得する意義を解説。
なぜ今回は「農水省」も?進化する地域ブランドフェスタ
会場の大宮駅東口周辺は、クリスマス前の週末ということもあり多くの人で賑わっていました。今回、今年最後となる第3回目が、夏の1回目、秋の2回目と大きく違う点は、農林水産省が後援に入ったことです。
農林水産省が後援に入るということは、いつもの地域団体商標だけでなく、「地理的表示(GI)保護制度」を取得している製品も出店されているということです。2つの違いについては下に簡単に語句解説としてまとめてありますのでご確認ください!
なお、地域団体商標制度についてさらに詳しく知りたい方は、特許庁のQ&Aページもぜひ参考にしてみてください。
【用語解説】「地域団体商標」と「GI」の違いとは?
どちらも地域ブランドを守る制度ですが、守り方が異なります。
- 地域団体商標(特許庁):
「地域名」+「商品名」(例:大間まぐろ)という名称(ブランドの信用)を独占的に使える権利。地域の事業者が団結して取得します。 - 地理的表示(GI)保護制度(農水省):
その産地の気候・風土・伝統製法が品質に直結している場合、その品質そのものを国が保護する制度です。
地域団体商標は「ブランド名」の保護に重きを置き、対象が幅広いのが特徴です。GIは国が「品質基準」まで含めて厳格に管理する制度、と理解すると分かりやすいかもしれません。
【会場レポ】作り手の熱意と試食の感動。息子は嫌いなネギを完食!
会場に足を踏み入れると、そこは単なる物産展とは違う、生産者の方々の熱意と来場者の好奇心で満ちた温かい空間でした。
各ブースでは、作り手自らが「なぜこの形なのか」「どうやって育てているのか」「どんな味がするのか」「どのように調理をしたら美味しく食べられるか」を丁寧に説明しており、多くのお客さんがその物語に聞き入っていました。そして、嬉しいことにいくつかのブースでは「試食コーナー」も用意されていました。
試食をいただいたのは2つ。「水戸の柔甘(やわらか)ねぎ」と「しほろ牛」のブースです。
柔甘(やわらか)ねぎはピクルス風の甘酢漬けが振る舞われていたのですが、普段はねぎを「辛い」と言って一切口にしない4歳の息子が、一口食べるなり「おいしい!あまーい!」と目を輝かせて完食してしまったのです。私も頂きましたが、ねぎ特有のえぐみや辛さが一切なく、フルーツのような上品な甘みとシャキシャキした食感が大変美味しかったです。
しほろ牛のブースでは、ローストビーフが提供されており、噛みしめるたびに赤身肉本来の濃い旨味がじわじわと広がり、脂に頼らない肉質の良さ、肉本来のうま味を実感しました。
試食の美味しさと生産者さんの熱意にすっかり魅了され、気づけば色々と買い込んでしまいました。
こちらが今回の戦利品です!鮮やかな朱色のエコバッグの上に並べてみました。
ここから先の紹介では、各カードの下部分に特産品の特長などを紹介した公式ページと、実際の登録情報ページを載せているので気になる方は是非飛んでみてくださいー!
【購入品紹介①】野菜・そば編:GIと地団の実力を体験
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辛さ4倍!「親田(おやだ)辛味大根」(長野県)
【地域団体商標】
見た目は大根というより、まるでカブのような愛らしい丸い形をしています。しかし、その実力は強烈です。最大の特徴は、一般的な青首大根の約4倍とも言われる辛味成分(イソチオシアネート)。
✏️メモ:地元では「あまからぴん」と表現されるそうです。口に入れた瞬間にガツンとくる激辛の衝撃、その直後に広がるほのかな甘み。水分が少なく肉質が緻密なため、蕎麦つゆが薄まらず、薬味として最高の仕事をしてくれるそうです。我が家はこちらを使って絶対に年始に辛味餅を作って食べます!
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息子も認めた「水戸の柔甘(やわらか)ねぎ」(茨城県)
【GI登録産品】
試食でその甘さに感動し、迷わず購入した一品です。一般的なねぎと違い、緑の葉の部分まで柔らかく、生でサラダとして食べられるのが最大の特徴。雨に当てないハウス栽培のため病気にかかりにくく、農薬の使用を極限まで減らした「安心」も一緒に買えるねぎです。
✏️メモ:美味しさの秘密は、成長に合わせて白い部分を遮光シートで覆う「軟白(なんぱく)栽培」。手間暇をかけて日光を遮ることで、ストレスなく育ち、筋っぽさのないとろけるような甘さが生まれるそうです。我が家は年越しそばの薬味に使おうかと考えています。
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香り爆発!「鹿沼在来そば」(栃木県)
【GI登録産品】
袋を開ける前から期待が高まるお蕎麦です。特徴は、なんといってもその「小粒」さ。実が小さいということは、香りの元となる「甘皮」の比率が高くなることを意味します。そのため、茹でた時の穀物特有の香ばしさと、口に含んだ時の風味が段違いだと言われています。
✏️メモ:この品質を守り抜いているのが、徹底した「隔離栽培」です。他地域の品種と交雑しないよう、山に囲まれた沢地(永野地区など)をあえて選んで栽培し、明治時代から続く在来種のDNAを現代まで100%守り抜いているという、執念の結晶です。今年の年越しそばはこちらで決定です!今から楽しみにしています。
【購入品紹介②】お肉編:北海道の「しほろ牛」と「びらとり和牛」
そしてメインディッシュは、北海道から参戦した2つのブランド牛です。
「しほろ牛」のローストビーフと、「びらとり和牛」のハンバーグ。同じ北海道の牛肉ですが、それぞれの個性を楽しむために購入しました。
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しほろ牛ローストビーフ(北海道士幌町)
【地域団体商標】
ホルスタイン種由来の「赤身肉」の美味しさを追求したブランドです。試食で感じた、脂に頼らない肉本来の力強い味わいとうま味が忘れられず購入しました。解凍後、切り分けるだけでメインの一皿になる手軽さも魅力です。
✏️メモ:50年以上の歴史を持ちますが、伝統にあぐらをかかず、最近ロゴを刷新。「CROSS」という新ブランドを展開するなど、SDGsや新しい食の価値観を取り入れた先進的なブランディングも注目されています。我が家はクリスマス用にと思って購入しました!
Buy 05
びらとり和牛ハンバーグ(北海道平取町)
【地域団体商標】
こちらは黒毛和種のブランド牛を使ったハンバーグです。びらとり和牛といえば上質な霜降りが特徴ですが、ハンバーグになることでその脂がパティ全体に馴染んでいるはず。口に入れた瞬間に濃厚な甘みと香りが広がる…そんな贅沢な体験を期待して購入しました。
✏️メモ:その濃厚な味を作るのは、北海道平取町の「凍てつく冬の寒さ」。妊娠期間を含め約40ヶ月という長い歳月をかけ、厳しい寒さの中で牛がエネルギーを蓄えることで、旨味が凝縮されるそうです。特別な日のディナーにするかこちらもクリスマスかお正月に食べる予定です!
【完売】タッチの差で買えず…!気になった2つの産品
そして、ここからは次回の楽しみとしての記録です。
2日目のお昼頃ブースを訪れた時には、残念ながら既に「完売」の札が下がっていた2つの産品がありました。買えなかったからこそ余計にその魅力が気になり、どんなこだわりがあるのかを調べてみました。
Sold out 01
伊達のあんぽ柿(福島県)
【地域団体商標 & GI ダブル取得】
今回狙っていた製品の1つでした。原料となる「蜂屋柿」は大粒で糖度が高く、完成品は水分量が50%もあるため、ドライフルーツとは思えないジューシーさが魅力です。表面は鮮やかなあめ色、中はとろけるようなゼリー状の果肉で、濃厚な甘みが口いっぱいに広がります。まさに「自然の和菓子」と呼ぶにふさわしい逸品です。
✏️メモ:美味しさの秘密は、伊達地方特有の気候を利用した「もどり」という工程。冷たい風「半田おろし」で乾かし、阿武隈川の「川霧」で湿気を吸わせる。乾いては湿気を吸う、自然の呼吸(もどり)を繰り返すことで、あの独特の食感が生まれるそうです。
Sold out 02
沼津ひもの(静岡県)
【地域団体商標】
アジの開きをはじめ、生産量日本一を誇る沼津の干物ですが、スーパーのものとは一味違います。駿河湾の豊かな恵みと、干物作りに適した湿度の低い強い風「習い風(ならいかぜ)」によって、魚の表面に膜を作り、旨味を内部に閉じ込めています。焼くと身がふっくらとして、脂の乗りが抜群なのが特徴です。
✏️メモ:味の決め手は、数十年にわたり継ぎ足し使われている秘伝の「塩汁(しょしる)」。塩味だけでなく、魚のエキスが溶け込んだ発酵熟成のような深い旨味が加わります。さらに、富士山の雪解け水である「柿田川の湧水」で丁寧に洗浄するなど、水へのこだわりも徹底しています。
【知財コラム】なぜ「ダブル取得」が最強なのか?〜制度の深掘り〜
今回紹介した「伊達のあんぽ柿」のように、一つの産品で「地域団体商標」と「GI(地理的表示)」の両方を取得しているケースがあります。
有名なところでは、「夕張メロン」や「神戸ビーフ」などもこのダブル取得産品です。なぜ生産者たちは手間をかけてまで2つの制度に登録するのでしょうか?そこには、単なるブランド保護を超えた「鉄壁の守り」を構築する戦略的な理由があります。
1. 「私権」と「共有財産」。決定的なアプローチの違い
両者は「地域ブランドを守る」という目的は同じですが、その「守り方」や「誰が動くか」が決定的に異なります。
- 性質:「私権」としての保護
- アクション:自分たちの権利として、自分たちで訴訟(差止・損害賠償)を起こす「自力救済」が基本。
- 強み:全商品が対象。水際対策が可能。
- 性質:「共有財産」としての保護
- アクション:地域の財産として、不正な業者に対して国(農水省)が取り締まりを行う「行政措置」が基本。
- 強み:更新不要。品質管理が厳格。
2. 併用することで完成する「鉄壁の守り」
「自分たちで守る権利」と「国が守ってくれる制度」。この2つを組み合わせることで、死角のない最強の布陣が完成します。
メリット①:攻めと守りの「相互補完」
GI登録をしていれば、偽物に対して国が取り締まり(行政処分)を行ってくれるため、生産者団体の負担が減ります。一方で、地域団体商標も持っていれば、行政処分だけでなく、模倣品業者に対して自分たちで「損害賠償請求(民事訴訟)」を行い、経済的な損失を取り戻すことも可能です。
メリット②:「水際対策」と「海外保護」
地域団体商標があれば、税関で模倣品の輸入を止める「水際対策」が可能になります。これは商標ならではの強力な物理防御です。一方でGIには、協定を結んだ国(EU等)で自動的に保護される「相互保護」の枠組みがあります。
つまりダブル取得は、国内・国境・海外のすべてのフェーズでブランドを守れる最強の選択なのです。
💡イメージで理解する「2つの守り」
- 地域団体商標 = 「民間の警備会社と契約した会員制クラブ」
会費(更新料)はかかりますが、自分たちのルールで運営し、問題があれば自分たちで雇った警備員(弁護士)が直接相手を追い出します。 - GI = 「国が管理する国立公園の特別保護区」
維持費(更新料)はかかりませんが、入るためのルール(品質基準)は非常に厳格です。その代わり、違反者は国のレンジャー(役所)が取り締まってくれます。
つまり、ダブル取得とは「国のレンジャーに守られながら、専属の警備員も雇っている状態」と言えます。
最後に、今回紹介しきれなかった残り5品目もリストアップしました!その登録情報や産品の特長を説明したページのリンクも貼ってありますので気になる方は是非チェックしてみてください!
🛍️ 出店産品全リスト
まとめ:頂いたエコバッグと「見えない価値」。いつもの食卓をちょっと特別に
実は、先ほどの写真で購入品の下に敷いていた朱色のエコバッグは、会場を出る際に主催者の方からいただいたものです。おしゃれな日本地図と地域団体商標のロゴがデザインされたしっかりした作りのバッグで、大切にしつつも、普段からガシガシ使い倒したいと思います。
今回のイベントで感じたのは、私たちは単に「食品」を買っているのではなく、その背景にある「地域の物語」や「生産者の努力」が生み出した「美味しさ」「ストーリー性」に魅力を感じて購入しているということです。「地域団体商標」や「GI」というマークは、そうした目に見えない価値を、国が保証してくれる「信頼の証」なのだと実感しました。
スーパーで買い物をする際も、パッケージにある「GIマーク」や「地域団体商標マーク」を少し意識して探してみてはいかがでしょうか。いつもの食卓が、ちょっと特別なものになるかもしれません。
🗾 あなたの街の「地域ブランド」も探してみませんか?
日本全国には、今回紹介した以外にもたくさんの産品が登録されています。「自分の住んでいる地域にはどんな名産品があるんだろう?」と気になった方は、ぜひ以下の公式リストから探ってみてください。意外な発見があるはずです!
