IP BASE AWARD ファイナリスト決定! 【ノミネート企業紹介シリーズ Vol.2】<エピストラ株式会社>4,300兆通りの実験を60回で完了!? 「実験の自動運転」と取得特許を解説!
先日公開した【シリーズ Vol.1】EAGLYS株式会社の記事はご覧いただけましたでしょうか?
秘密計算という「守り」の技術でデータを活用するEAGLYS社に続き、シリーズ第2回目となる今回は、バイオや素材開発の現場における実験プロセスを劇的に変革することを目指しているエピストラ株式会社を追っていきます。
🏆 第7回 IP BASE AWARD ファイナリスト(スタートアップ部門)
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EAGLYS株式会社:秘密計算技術によるデータセキュリティ・利活用
Vol.1 公開済 -
エピストラ株式会社:AI×バイオ(実験自動化)によるライフサイエンス加速
★Vol.2 今回解説★ - 株式会社ゼロボード:GHG排出量算定・可視化クラウド
- ルクサナバイオテク株式会社:核酸医薬における独自技術
彼らが挑んでいるのは、熟練の職人でさえ数年かかると言われる実験条件の探索を、AIとロボットの力で「数週間」に短縮してしまうこと。例えば、「4,300兆通り」もの膨大な組み合わせの中から、たった「60回」の実験で正解(最適解)を見つけ出す……そんな魔法のような技術が、既に存在し、更に実用化までされていることをご存知でしょうか?
本記事では、シリーズ第2弾として、日本のライフサイエンス研究を加速させるエピストラ社の技術と、その根幹を支える知財戦略について、取得特許を紐解きながら解説します。
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この記事の要点
⏱️読了目安: [約7分]
- >実験回数を73%削減:
日立・ファーメランタとの実証で、4,300兆通りから60回で最適解を特定。 - 「匠の技」を超える:
人間には思いつかない「非直感的なパラメータ」をAIが発見し、収量を劇的に向上。 - 特許戦略の核心:
実験手順を「プログラム(抽象構文木)」に変換する独自の特許技術で、再現性と自動化を実現。
記事の目次
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なぜ「実験」は終わらないのか? 4,300兆通りの壁
新しい医薬品やバイオ素材を開発する際、研究者たちが最も頭を悩ませるのが「条件検討(レシピ作り)」です。例えば、細胞を培養して目的の物質を作らせる場合、「温度」「pH」「攪拌速度」といった基本的な条件に加え、数十種類ある「培地成分(栄養分)」の濃度や添加タイミングなど、検討すべきパラメータは無数に存在します。
もし、パラメータが10個あり、それぞれの設定値が数通りあるとしたら……
その組み合わせは天文学的な数字になります。
Problem
「組み合わせ爆発」と「熟練者の限界」
【4,300兆通りの迷宮】
例えば、11個の変数を最適化しようとすると、その組み合わせは約4,300兆通りにも及びます。これを従来の「総当たり(グリッドサーチ)」で調べることは物理的に不可能です。
【属人化する現場】
そのため、現場では熟練の研究者が長年の「勘と経験」を頼りに、「このあたりが良いはずだ」と当たりをつけて実験を行っています。しかし、これでは「熟練者にしか再現できない」「最適解にたどり着く前に時間と予算が尽きる」という課題が常につきまといます。
「熟練者の勘」をAIで再現・超越する。Epistra Accelerateの仕組み
この「終わりのない実験」を終わらせるために開発されたのが、エピストラ社のAIソリューション「Epistra Accelerate」です。彼らのアプローチは、全ての条件を試すのではなく、「過去のデータから『正解がありそうな場所』を予測し、そこだけをピンポイントで掘る」というものです。
【用語解説】ベイズ最適化とは?(砂漠の宝探し)
広大な砂漠の中から、たった一つの宝箱(最適解)を探す状況を想像してください。
闇雲に穴を掘るのではなく、いくつか掘ってみて得られた地質データ(過去の実験結果)を元に、「この地形なら、あっちの方角に宝がある確率は80%だ」と確率的に予測し、次の一手を決める手法です。これにより、最小限の試行回数で宝にたどり着くことができます。
エピストラのシステムは、単に計算するだけでなく、実験ロボットとも連携して自律的にサイクルを回します。
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Step 1
学習(Modeling)
過去の実験データや、少数の初期実験データをAIに入力。パラメータと結果の関係性を数理モデル化します。
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Step 2
提案(Proposal)
ベイズ最適化アルゴリズムが、「次にどこを試せば、最も効率よく最適解に近づけるか」を計算し、具体的な実験条件を提案します。
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Step 3
実行(Execution)
提案された条件に基づき、人間または実験ロボット(汎用ヒト型ロボット「まほろ」など)が実験を実行します。
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Step 4
再学習(Loop)
得られた結果をAIが再び学習。予想とのズレを修正し、精度を高めながらStep 2へ戻ります。このループを回すことで、短期間で正解へと収束させます。
【実証結果】わずか60回で「世界最大級」の収量を達成
では、実際にどれほどの効果があるのでしょうか。株式会社日立製作所およびファーメランタ株式会社との共同実証(2024-2025年)の結果が公開されています。
テーマは、医薬品原料となる「(S)-レチクリン」を微生物(スマートセル)で作らせるための培養条件の最適化です。変数は11個、組み合わせは約4,300兆通りという難題でした。
- 統計的な正しさを重視するため、変数が多すぎると実験回数が爆発的に増える。
- 今回の条件で網羅的に調べるには、最低でも221回の実験が必要と試算された。
- 人間の思考範囲(キリの良い数字など)に縛られる。
- 「目的(収量最大化)の達成」を最優先し、有望な領域だけを探索。
- 結果、わずか60回の実験で最適条件を特定。(実験回数を約73%削減)
- 収量は初期の約2倍となり、世界最大級の生産性を達成。
さらに特筆すべきは、AIが導き出した条件が、「人間には思いつかない値」だったことです。
人間なら「温度30℃、pH7.0」のようにキリの良い数字を設定しがちですが、AIは「30.5℃、pH6.8」のような細かい、しかし絶妙な数値を提案してきました。この「人間の認知バイアス(思い込み)」を排除できる点こそが、熟練者をも超える成果を生む鍵となっています。
【特許解説】「実験の自動運転」を支える知財戦略
エピストラ社の強さは、単なるAIアルゴリズムの提供にとどまりません。彼らは、実験プロセスそのものをデジタル化・構造化する技術を開発し、そのコア技術を知財で強固に守っています。
ここでは、その競争力の源泉となる代表的な特許を解説します。
実験プロトコルの「構造化」技術
(特許第6931946号)
熟練者の実験ノートにある「適度なタイミングで」「よく混ぜる」といった曖昧な記述を、AIが理解できる「抽象構文木(AST)」というデータ構造に変換する技術です。
- アナログをデジタルへ:実験手順を「操作(Action)」と「値(Value)」に分解し、プログラムコードのように扱えるようにします。
- 柔軟な書き換え:構造化されているため、AIが「手順3の温度パラメータだけを30℃から30.5℃に変更する」といった微細なチューニングを自動で生成できます。
- ロボット連携:曖昧さが排除されるため、実験ロボットへの指示出しもスムーズになり、完全な再現性を担保します。
【用語解説】抽象構文木(AST)とは?
本来はプログラミング言語の構造を、木(ツリー)のような階層構造で表現するためのデータ形式です。エピストラの技術では、実験の手順書(レシピ)をこの形式に変換します。例えば「攪拌(かくはん)する」という操作の下に「回転数」「時間」といった詳しい条件が枝葉のようにぶら下がる形にすることで、「曖昧さ」を完全に排除し、コンピュータやロボットが厳密に理解・実行できるようにしています。
ブラックボックスを可視化する「状態推定」
(特許第7572086号)
細胞培養のように、一度始まると途中で中身を詳しく調べられないプロセスにおいて、間接的なデータから内部状態をリアルタイムで推定する技術です。
- 非破壊で予測:細胞を壊さずに撮れる「顕微鏡画像」や、微量の「培養上清(上澄み液)」の分析データから、現在の細胞の状態や栄養枯渇をAIが予測します。
- 未来を先回り:「あと3時間で栄養が切れる」といった予測に基づき、最適なタイミングで添加物を自動投入するフィードバック制御を実現します。
- 失敗の回避:異常の予兆を早期に検知できるため、数週間かかる培養が最後の最後で失敗するというリスクを劇的に減らします。
その他の主要な取得特許一覧
エピストラ社は、上記の他にも周辺技術を網羅的に特許化し、技術的な優位性を確立しています。
エピストラ株式会社 特許ポートフォリオ(一部抜粋)
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生産プロセス最適化方法(特許第6931946号):
実験プロトコルの構造化と最適化エンジンの連携に関する基本特許。 J-PlatPat案件ページ -
状態推定システム(特許第7572086号):
培養プロセス等の状態推定と、それに基づく制御パラメータの最適化。J-PlatPat案件ページ -
状態推定システム(特許第6977977号):
多変量データを用いたプロセスの異常検知や状態把握に関する技術。 J-PlatPat案件ページ
まとめ:研究者を「単純作業」から解放するために
4,300兆通りもの条件を前に、途方に暮れるしかなかった研究現場。エピストラの技術は、そこから研究者を解放し、人間にしかできない「創造的な仮説立案」や「新しいテーマの探索」に注力できる未来を提示しています。
もし、皆様の研究開発現場でも「条件検討だけで何ヶ月も過ぎていく」「熟練者の退職でノウハウが失われる」といった課題をお持ちであれば、一度このような「実験の自動運転」技術に目を向けてみてはいかがでしょうか。終わりの見えない実験室の景色が、少し違って見えるかもしれません。
🔜 次回予告:シリーズ Vol.3
次回は、脱炭素経営の必須ツール!GHG(温室効果ガス)排出量算定・可視化クラウドの株式会社ゼロボードをご紹介します。
サプライチェーン全体のCO2排出量をどうやって「見える化」し、削減につなげるのか?その知財戦略にも迫ります。どうぞお楽しみに!
