エントランス風景(R8.3.2~) あの「黄色」は希望だったのか、それとも… 春を告げるレンギョウを愛した高村光太郎。 有名作『レモン哀歌』に一瞬の奇跡を見る。
早いものでもう3月。今年もあっという間に過ぎ去ってしまいそうで怖くなります… 今、オフィスのエントランスには鮮やかな黄色い枝物・花が飾られています。春の訪れを告げる落葉低木、「レンギョウ」です。
黄色って、見るだけでパッと心が明るくなって、不思議と元気が湧いてくるようなエネルギーがありますよね。レンギョウの花言葉もずばり「希望」。黄金色の小花が枝いっぱいに咲く姿が、あたたかくなる春から始まる新生活や門出などへの新しい季節への期待を感じさせるのかなと。
少し話は変わって、この「レンギョウ」とその「希望の黄色」をこよなく愛した芸術家がいたことをご存じでしょうか。日本を代表する詩人・彫刻家、高村光太郎です。そして、彼は深い絶望の中で一つの「黄色い果実」を通して最愛の妻・智恵子の最期の様子を詩にしました。そう、あの有名な「レモン哀歌」です。
今回は、エントランスのレンギョウを眺めながらふと思い出した、高村光太郎の『レモン哀歌』に詠まれた「黄色」の意味と、彼がなぜ「希望」の花言葉を持つレンギョウを愛したのか、徒然と書いていきたいと思います。
この記事の要点
⏱️読了目安: [約5分]
- 春を告げるレンギョウは、「希望」という前向きな花言葉を持つ黄金色の花。日当たりと風通しを好みます。
- 『レモン哀歌』のレモンは、病床の妻・智恵子の意識を「ぱつと」正常にした鮮烈な気分の晴れ間(トパーズの黄色)を象徴しています。
- 高村光太郎の命日(4月2日)は「連翹忌(れんぎょうき)」。彼が絶望の中で最後まで信じ、愛し抜いた「希望の黄色」の物語です。
記事の目次
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春を告げる「黄金の鈴」:レンギョウってどんな花?
レンギョウ(連翹)は、中国原産のモクセイ科の落葉低木です。欧米では弓なりにしなる枝に黄色い花が連なる姿から、「ゴールデンベル(黄金の鈴)」なんて素敵な名前で呼ばれて親しまれています。
丈夫で若木からよく開花し、家庭の庭木や公園でもおなじみですが、一口にレンギョウと言っても実はいくつかの種類があり、それぞれ葉や花の出るタイミングが違うようです?調べたらいろいろ出てきました。
- 葉が展開する「前」に花が開花するのが最大の特徴。
- 春先に枝一面が鮮やかな黄金色に染まる。
- 弓なりに長くしだれる優美な樹形を持つ。
- 花と「同時」に葉が展開するため、黄色の中に緑が混じり、少し落ち着いた趣になる。
- 直立した樹形で、枝が上に向かってスッと伸びる(一部は枝垂れる)。
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Step 1
レンギョウの選び方・植え付け
種類によって趣が変わるため、見比べて枝ぶりの美しいものを選びましょう。植え付けは霜の降りる時期を除いた落葉期が適期。枝が横に伸びるため、日当たりと風通しの良い場所に、間隔に余裕を持って植えます。
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Step 2
水やりと肥料
地植えの場合は、植え付け時にたっぷりと水を与える以外は基本的に不要です。鉢植えは表面の土が乾いたら水やりを行います。肥料も肥えた土なら不要ですが、与えるなら落葉期に寒肥えとして土にすきこみ、花後にお礼肥えを施します。
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Step 3
剪定・切り戻し
美しい樹形を保つためには剪定が重要ですが、花芽は梅雨時から秋にかけて形成されます。そのため、強剪定は花が咲き終わってから5月中旬ごろまでに完了させるのが最大のポイントです。冬の落葉期は、混み合った枝や枯れ枝を整える程度に留めましょう。
高村光太郎と妻・智恵子の過酷な軌跡
公園なんかの苗木でもよく植えられていたりするので意外と身近なレンギョウですが、この花を誰よりも愛したのが、詩集『智恵子抄』などで知られる日本を代表する高村光太郎でした。光太郎の生涯は、愛する妻・智恵子との出会い、そして彼女を蝕む重い病魔との過酷な闘いの歴史でもありました。
『レモン哀歌』の黄色がもたらした「一瞬の晴れ間」(考察)
智恵子が死の淵を彷徨う病室。きっとそこは暗くて、とても重苦しい空気に包まれていたと思うんです。統合失調症の幻覚に苦しみ、結核の咳(「あなたの咽喉に嵐はあるが」)に苛まれる妻を前に、光太郎は「何もしてやれない」という痛切な遣る瀬無さを抱えていたはずです。
でも、智恵子が光太郎の持ってきた一つのレモンを「ガリリ」と噛んだ瞬間、その空気が一変します。まずは、その『レモン哀歌』の全文を、少しゆっくりと味わってみてください。
『レモン哀歌』 高村光太郎
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉(のど)に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
レモンの鮮やかな黄色、そして弾けるような爽やかな香気が、病室の暗雲を切り裂く一筋の光を走らせ、重く暗い感じ(モノクロ)だった病室に鮮やかな色を付け、智恵子の色にも生気を感じさせたように見えたのではないでしょうか。そして、「トパアズ(トパーズ)」という宝石には、古代から「病気を癒す治癒力」や「精神力を高める」という意味が込められていることが、光太郎の思いを含んでいるのではないかと思わざるを得ません。
レモンの強烈な黄色と生命力は、智恵子の意識を「ぱつと」正常に引き戻し、彼女の心に一瞬の澄み切った気分の晴れ間を作り出したのだと思います。
考察 01
「レモン」に隠された愛と自己投影
レモンの花言葉は「誠実な愛」。光太郎はレモンに智恵子への深い愛と治癒の願いを託しました。しかし一方で、アメリカに留学経験のある光太郎は、英語スラングにおける「lemon(不良品、役に立たず)」という意味も意識していたのではないでしょうか。
かつての「不良」な自分を救ってくれた智恵子。それなのに、病魔に苦しむ彼女を前に「自分は不良品のようになんの役にも立たない」という痛烈な無力感。そんな不器用で遣る瀬無い自分の思い(lemon)を、智恵子はそのやさしさで「誠実な愛」として受け取ってくれた。そんな解釈も浮かび上がってきます。
考察 02
智恵子が求めた「ほんとの空」と手向けられた桜
生前、智恵子は「東京に空が無い」と嘆き、「阿多多羅山(あだたらやま)の山の上に毎日出てゐる青い空が 智恵子のほんとの空だ」と語っていました。病の中にあっても、故郷・福島の新鮮な自然と空への強い望郷の念は決して消えませんでした。
光太郎が祭壇の智恵子の写真の前に「桜」を手向けたのは、福島県安達郡が桜の名所であったからです。せめて故郷の地で、大好きな自然に包まれて安らかに眠れるようにという、光太郎の切ない願いが込められているんですね。
なぜ彼は「希望」の黄色を愛したのか。4月2日「連翹忌」
高村光太郎の命日である4月2日は、別名「連翹忌(れんぎょうき)」と呼ばれています。生前、彼が庭に咲く黄色いレンギョウの花を愛し、告別式の際にもその柩(ひつぎ)にレンギョウが飾られたことに由来します。
【用語解説】智恵子抄と連翹忌
・智恵子抄(ちえこしょう):光太郎が30年に渡って描き続けた詩集。『レモン哀歌』のほか『値ひがたき智恵子』『あの頃』『あどけない話』などが収録され、智恵子への無償の愛が綴られています。
・連翹忌(れんぎょうき):4月2日の光太郎の命日。春を告げる黄金色の花・レンギョウは、光太郎の晩年を彩る大切な存在でした。
なぜ彼は、これほどまでにレンギョウを愛したのでしょうか。
それはもしかすると、智恵子が最後にレモンを噛んだ瞬間に見せた、あの「トパアズ色の香気」と無関係ではないのかもしれません。深く暗い絶望の淵にあっても、あの鮮烈な黄色は「ぱつと」意識をクリアにし、命の輝きを見せてくれました。
レンギョウの花言葉である「希望」。そして、はつらつとした生命力を放つ「黄金色」。
光太郎は、庭で満開になるレンギョウを見るたびに、智恵子が一瞬だけ取り戻したあの鮮烈な気分の晴れ具合と、彼女が遺してくれた愛の記憶を重ね合わせ、前を向く「希望」のエネルギーを見出していたのではないでしょうか。
日常の風景から文学の世界を
私たちが普段何気なく通り過ぎる道や公園で咲き誇るレンギョウ。そんなレンギョウから高村光太郎と智恵子の物語、レモン哀歌について書いてみました。(飛躍し過ぎましたかね…?)
知財の管理や研究開発の最前線に立つ皆様は、日々膨大な情報や複雑な業務に向き合い、時には「どうして自分ばかり…」と遣る瀬無さや孤独を感じることもあるかもしれません。そんな大変な時、少し疲れた時に、このブログが皆様の心に「ぱつと」晴れ間をもたらす、まさに「希望の黄色」のような存在になれたらいいなと願いながら、私たちはこの記事をお届けしています。
最近は、文学作品っぽいもの・小説などをなかなか読めていないので、これを機に何冊か読んでみようかな。
